患者さんのために描く


だいぶ遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年の目標は「大人になるぞ」という意味を込めて「蝶々」にしました。
抽象的すぎる、とかそういう突っ込みは無しでお願いします。
 …………………………………………………………………………………………………

研修生活が始まってそろそろ三か月。
仕事にもだいぶ慣れてきたので 、仕事について少し書いてみようかと思う。

わたしの働いている病院内には
絵画療法チームがいくつかあるけれど
わたしたちのチームのクライアントは、主に内科、リハビリテーション科の患者さんで、
ほかにもがん患者、対麻痺患者などがいる。
それから児童青年精神科の子どもたちも、私たちのところへ来るので
本当に色々な患者さんたちを対象にしている。

患者さんが様々なので、当たり前だけれど絵画療法の形も多種多様。

例えば、わたしは今、とあるがん患者さんのために絵を描いている。
患者さんが絵を描くのではなくて、わたしが彼のために、彼の想像を絵にしているわけである。
というのも、彼の体が弱ってきているので
そして彼の精神状態が死への不安で崩れそうになっているので
彼の過去の美しい思い出などを絵にして、病室の壁に貼っていくように
医者や心理療法士側から依頼があったのだ。

大学院の授業でも、一対一のグループになって
お互いに、お互いの想像を絵にして表現したことがあった。
その時は、わたしは自分のみた悪夢を友人に絵に描いてもらった。
友人が描いたにも関わらず、そこにはわたしの個人的な夢が目に見える形で表現されていて
そして、友人が描いてくれたからこそ、わたしは安心してその夢と向き合うことが出来た。
とても不思議な体験だった。

患者さんのために絵を描く、というのは既に何度か経験したことがあったけれど
ここまで集中的に、一人の患者さんのために何枚も絵を描いたのは今回が初めて。

わたしは美大の絵画科出身なので、自分で言うのもなんだけれど、アートセラピストのなかでは絵が描けるほうである。
自分の想像が紙に映し出される過程は、一日中病室にいる患者さんにとっては、特別なことだろうと思うし
患者さん本人がとても喜んでくれているのが感じられる。
担当医も「彼は君の絵の中で生きている」というふうに言っていた。

けれども、やっぱり彼に自分で絵を描いてほしいと願う自分がどこかにいる。

一度、彼が小さな絵を描いたことがあった。
私には海や、滝などを描いてほしいというのに
彼自身が描いたのは、砂漠と地平線に落ちていく真っ赤な太陽だった。

彼が望む美しい景色を描くことは容易いけれど、彼は本当はどこにいるんだろう。
自分で絵を描かなくても、人は自分の心の底に触れることができるのかな。
それともそんなことは、必要がない場合もあるんだろうか。

アートセラピーの様々な形と限界について考える日々。

コメント

人気の投稿